社員食堂での食事提供、税金はかかる?非課税扱いにするための実務ポイント
【相談】
私は建設業を営む50代の経営者です。
ここ最近、業界全体で人手不足が深刻化している中、少しでも働きやすい職場環境を整えて、人材の確保につなげたいと考えています。
その取り組みの一つとして、会社の敷地内に社員食堂(当社直営)を設置することにしました。
従業員が仕事の合間にしっかり食事をとれる環境を整えれば、健康面にも良いし、福利厚生としての魅力も上がると期待しています。
そこでご相談なのですが、この社員食堂で従業員に食事を提供するにあたり、食事代の一部を従業員から徴収する場合、どのようにすれば所得税上、課税されない=非課税扱いにできるのでしょうか?
いわゆる非課税限度額の判定基準について、わかりやすく教えていただけると助かります。
【回答】
ご相談ありがとうございます。
東京都台東区 上野にありますクレア総合会計の税理士 岩崎です。
社員食堂での食事提供について、従業員の負担額によっては所得税の課税対象になるのでは?というご心配、もっともです。大変税務を勉強なさっているのかと存じます。
ですがご安心ください。一定の要件を満たせば、このような「現物支給の食事」も非課税扱いとすることが可能です。
具体的には、所得税法上の非課税の判断は、以下の2つの条件を満たすかどうかによって決まります:
- 従業員から徴収する食事代が、食材などの直接費の50%以上であること
- 会社の負担分(直接費−徴収額)が、月額3,500円(税抜)以下であること
この2点をクリアしていれば、従業員にとっては課税されることなく食事を受けられるというわけです。
詳細は次の【解説】で詳しくご説明いたします。
【解説】
1.現物支給の食事も、原則「給与」として課税対象
所得税法では、給与所得の収入金額には**金銭だけでなく、物やサービスなどの経済的利益(=現物給与)**も含まれるとされています。
つまり、会社が従業員に食事を提供した場合、その分も本来は給与とみなされ、課税されるのが原則です。
ただし、福利厚生の一環として会社が食事を提供する場合には、一定の条件を満たせば非課税とすることができます。
2.社員食堂での食事を非課税にするための「2つの要件」
所得税法では、会社が従業員に支給する食事について、次の2つの要件を両方とも満たしている場合には、従業員に経済的利益がないものとみなされ、**所得税が課されない(=非課税)**とされています。
<非課税となる要件>
- 従業員から徴収する食事代が、食事にかかる「直接費」の50%以上であること
- 会社負担分(=直接費 − 徴収額)が、税抜で月額3,500円以下であること
この「直接費」というのは、材料費や調味料、食材など、食事そのものを作るためにかかった費用のことです。
3.「食事の価額」の評価方法とは?
非課税の要件を判定するにあたって、「食事の価額」をどのように評価するかは次のように決められています。
- (1)会社が自前で調理する場合
→ 食材や調味料などの「直接費」の額で評価 - (2)出来合いの弁当や食事を購入して提供する場合
→ 購入価格で評価
今回のように直営の社員食堂で調理して提供するケースでは、「直接費」が基準になります。
4.税抜で判定、端数処理にも注意
なお、会社負担額(月額3,500円)の判定にあたっては、消費税を除いた税抜金額で計算します。
また、10円未満の端数は切り捨てとされていますので、処理の際には細かい数字にも注意が必要です。
5.まとめ:非課税にするためには「計算根拠の記録」がカギ
社員食堂の食事提供を非課税にするには、
- 食事1食あたりの材料費(直接費)
- 従業員から徴収する実際の金額
- 月ごとの会社負担額の合計
といったデータをしっかり記録・管理することがポイントになります。
この2要件を満たしていることが確認できれば、従業員の手取りにも影響を与えず、福利厚生としての効果も高まります。
【まとめ】
社員食堂で従業員に食事を提供する場合、条件を満たせば所得税は非課税扱いにすることができます。
非課税とするための要件は、次の2点です。
- 従業員からの徴収額が食材などの直接費の50%以上であること
- 会社の負担分が月額3,500円(税抜)以下であること
これらの条件を満たせば、社員側に経済的利益があるとされず、給与課税はされません。
ただし、非課税を適用するには、材料費や徴収額の記録・根拠資料の保管が大前提です。
今回のような福利厚生の整備は、従業員の満足度を高め、定着や採用にもつながる重要な投資です。
制度を上手に活用して、税務面でも損のない設計をしていきましょう。